第3節 - 呉用

この節の概要
梁山泊の壊滅から生き延びた軍師の呉用は、顔に深い火傷を負った地元の名主「趙仁」という偽名を名乗り、江南の睦州にある趙家村に身を潜めている。かつての頭領・宋江から託された、長期にわたる梁山泊再起計画を推し進めるため、呉用は隠し田を開墾して生活基盤を築いている。その一方で、江南一帯で宗教的な信仰心を利用して多くの民衆を集め、独自の勢力を築きつつある有力者・方臘の存在に目をつけ、その懐深くに入り込もうとする。呉用は従者の戴宗を伴い、方臘の砦のような館を訪れ、彼の猜疑心を警戒しながらも、漆園の開設許可や活動の時機について言葉を尽くして進言を行う。夜になり、方臘の親族が集まる宴席に招かれた呉用は、その場にかつて梁山泊軍と死闘を繰り広げ、現在は宋朝の秘密組織「青蓮寺」の配下として方臘を監視しているとされる元宋軍の将、許定の姿を見出し、見えない謀略の渦を感じ取る。
主要人物
呉用(ごよう)
- 綽名:なし
- 所属・役割:梁山泊。かつての軍師、現在は趙家村の保正「趙仁」として潜伏
- 初登場:第1巻 第1章 第1節
梁山泊壊滅時の激しい火災で顔から上半身にかけて重い火傷を負い、片目の視力もほとんど失った。生き残ってしまったことに対する強い痛恨と悔悟を胸に抱きながらも、宋江の遺志を継ぎ、梁山泊の再興を果たすことだけに己の残りの命を捧げる覚悟を決めている。極めて冷静で高い知略を持ち、相手の性格を徹底的に調べ上げた上で、偽の身分を完璧に演じ分ける忍耐力と強靭な意志を備えている。
方臘(ほうろう)
- 綽名:なし
- 所属・役割:その他。江南地方を足場に勢力を拡大する実力者
- 初登場:第1巻 第6章 第3節
睦州から杭州にいたるまで保正以上の影響力を持ち、困窮する民衆の信仰心や奇術を利用して人々を掌握し、急激に勢力を拡大している。表向きは磊落な人物を装うが、本質は極めて陰湿で猜疑心が強く、冷徹である。独自の勢力を築く野望を持つ一方、その志や思想には呉用が見極めようとしている不明瞭さが残る。
戴宗(たいそう)
- 綽名:なし
- 所属・役割:梁山泊。かつての探歩兵軍頭領、現在は呉用の連絡・諜報役
- 初登場:第1巻 第1章 第1節
優れた隠密能力と情報収集力を有する梁山泊の重要幹部。呉用が方臘のもとを訪問する際には大きな荷物を背負う従者として同行し、門番や従者たちの溜まり場から巧妙に情報を引き出す実務能力の高さを見せる。梁山泊の壊滅後も同志の救出や各地の連絡網、兵站の再整備に奔走し、呉用を影から支え続けている。
許定(きょてい)
- 綽名:なし
- 所属・役割:その他。方臘の陣営に身を寄せる将、青蓮寺の工作員
- 初登場:第1巻 第6章 第3節
かつて二竜山の戦闘で宋軍を指揮して梁山泊軍と戦った元将軍。敗北の責任から逃亡したとされていたが、実際は宋朝の秘密情報機関「青蓮寺」の指示を受け、方臘の身辺を監視・工作するために配されている。開封府の上級役人となった優秀な息子を持ち、青蓮寺の首領・李富の密命を受けて潜伏する、警戒すべき老獪な人物である。
公孫勝(こうそんしょう)
- 綽名:なし
- 所属・役割:梁山泊。道士、秘密裏の工作・支援担当
- 初登場:第1巻 第1章 第1節
人智を超えた謀略や裏工作を専門とする、かつての梁山泊幹部。呉用が「趙仁」として完全に別人になりすまして潜伏できるよう、火事の捏造や戸籍・身元の偽装などを完璧に整え、彼の活動を支える役割を担う。
蒼香(そうこう)
- 綽名:なし
- 所属・役割:その他。趙家村の娘、呉用の妾
- 初登場:第2巻 第1章 第3節
趙家村の貧しい農家の娘。村人たちに推し出される形で、保正である「趙仁(呉用)」の妾として差し出された。最初は呉用の凄惨な火傷の跡に強い恐怖を抱いていたが、衣食の不自由のない暮らしをさせてくれる彼に対して、徐々にその存在を受け入れつつある。
登場人物の関係
graph LR
呉用 ---|同志| 戴宗
呉用 -->|後援| 蒼香
呉用 -->|接近| 方臘
許定 -->|監視| 方臘
呉用 -.->|警戒| 許定
呉用 ---|同志| 公孫勝
地名・拠点
| 地名 | 種別 | 解説 |
|---|---|---|
| 睦州 | 州・地域 | 江南地方にあり、方臘の巨大な影響力のもと、呉用が潜伏活動を行っている拠点地域 |
| 趙家村 | 村 | 睦州青渓の北に位置する小さな集落。呉用が「趙仁」として保正を務め、密かに隠し田を開墾している |
| 杭州 | 都市 | 呉用が「趙仁」の経歴として遊学し、火災に巻き込まれて火傷を負ったとされる偽装の舞台都市 |
| 太湖 | 湖 | 江南にある大水域。梁山泊軍が新たな再興拠点を建設しようとしている水域 |
| 二竜山 | 山 | かつて梁山泊軍と、許定率いる宋軍との間で激しい死闘が繰り広げられた場所 |
用語リスト
| 用語 | 読み | 解説 |
|---|---|---|
| 保正 | ほせい | 地域や村落を統治する名主・自治責任者。呉用は「趙仁」としてこの地位に就き、村の信望を集めている |
| 隠し田 | かくしでん | 政府の検地や税から逃れるために、台帳に登録せず秘密裏に開墾・所有されている田地 |
| 青蓮寺 | せいれんじ | 宋の朝廷が有する強力な秘密情報・暗殺工作機関。総帥・李富のもとで方臘軍への浸透工作など、広範な影の活動を展開する |
| 漆園 | しつえん | 漆の木を栽培して樹脂を採るための農園。呉用は方臘にこの開設の許可を求め、普通の村の経済活動を装うカモフラージュとした |
歴史・文化背景
北宋末期の退廃と混迷の中、政府による過酷な搾取と天災に喘ぐ民衆は精神的な救済を強く求めていた。方臘はこの民衆の不幸と素朴な信仰心を利用し、手品などの奇術と神秘主義的な言葉を結びつけることで、彼らの心を惹きつけて勢力を構築しつつあった。また、宋の朝廷は単に軍事力を展開するだけでなく、「青蓮寺」に代表される極めて高度なスパイ組織を各地方に張り巡らせ、各地の動乱の種の内部に、かつての将軍である許定のような工作員を送り込んで監視を行わせていた。
Human in the Loop
青蓮寺でも大物とみなされている方臘、いかほどの人間なのだろうか?蜂起すれば3か月で十万を集めるという。ただの、宗教カルトか、否か。さすがは呉用、趙仁と名を変えてすでに方臘に接触中である。
顔に大きな怪我を負いつつ生き延びた呉用だが、彼の基本戦略は基本的に水滸伝の時から変わっていないようだ。梁山泊軍は宋に勝てないと言い切った楊令の言葉が思い出される。
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