第2節 - 史進

第2巻 第1章 第2節

この節の概要

北の地域において、呼延灼、張清、史進が率いる梁山泊軍の三隊が、真定府の宋軍二万との戦闘に臨もうとしている。梁山泊軍の目的は、江南の太湖に再興のための大拠点を築く動きから宋軍の目をそらすこと、そして実戦を経験させて兵の練度を高めることである。かつての敗戦から逃亡を余儀なくされていた兵たちは、この久しぶりの本格的な戦闘を通じて、再び戦う意志と誇りを取り戻していく。戦闘後の野営地には、北方の女真の地から戻った燕青が合流し、そこで一同は「幻王」を名乗る楊令の動向について語り合う。燕青の口から、驚くほど精強な軍を率いる楊令の冷徹な戦術や、金国と宋の複雑な北方情勢が次々と明かされる。一同は、勝つことの残酷さに葛藤を覚えながらも、楊令が胸に秘める志の重さを確信し、来るべき未来に向けて前を向く。


主要人物

史進(ししん)

  • 綽名:九紋竜
  • 所属・役割:梁山泊。一軍の将、遊撃隊の指揮官
  • 初登場:第1巻 第1章 第1節

かつて梁山泊で活躍した若き豪傑の一人。梁山泊が敗戦したのちも志を失わず、自らの騎馬隊を率いて戦いの中に身を置いている。戦いにおいて身体が自然に反応するほどの卓越した武芸の持ち主であり、かつての同志との語らいに魂の救いを感じている。戦いの中にあってもどこか闊達さを失わず、楊令がどれほど成長したかを確認するため、彼と立ち合ってみたいという純粋な武人としての願いを抱く。

呼延灼(こえんしゃく)

  • 綽名:なし
  • 所属・役割:梁山泊。一軍の将、騎馬隊の指揮官
  • 初登場:第1巻 第1章 第3節

かつての梁山泊で騎兵軍の頭領を務めた百戦錬磨の将。宋軍にいた頃は連環馬の戦法で梁山泊を苦しめたが、帰順後は忠実な同志として戦い抜いた。一軍の将としての責任感が強く、梁山泊の復興に向けて、自らの騎馬隊を厳しく調練して前を向く姿勢を示す。実直かつ真面目な性格であり、かつて宋江が焚火を前に細やかな気遣いを見せていた思い出を懐かしむ情の深さを持つ。

張清(ちょうせい)

  • 綽名:なし
  • 所属・役割:梁山泊。一軍の将、騎馬隊の指揮官
  • 初登場:第1巻 第2章 第3節

かつて梁山泊で活躍した騎馬の将。冷静かつ理性的に戦況を見極める人物であり、別働隊を率いる唐昇ともかつて田虎の乱において同じ側に身を置いていた背景を持つ。楊令が新しい国を建設する時にこそ梁山泊の志が役立つと語ったことに深く共鳴し、彼が器の大きな人物であると認める。妻である瓊英の復帰を心待ちにする一面もあり、仲間たちの信頼を集める頼もしい存在である。

燕青(えんせい)

  • 綽名:浪子
  • 所属・役割:梁山泊。探歩兵軍幹部、情報収集役
  • 初登場:第1巻 第1章 第1節

北方の女真の地に赴き、完顔阿骨打や「幻王」こと楊令と直接会談を行って戻ってきた梁山泊の知恵袋。冷徹に物事の本質を見抜く洞察力を持ち、楊令が率いる軍の圧倒的な強さとその過酷な戦術について仲間に報告する。厳しい戦乱の中で、楊令が胸に秘める志の重さを固く信じ、彼の存在が梁山泊の救いになると感じている。常に大局的な視点から物事を捉え、金国や遼、宋が絡み合う北方情勢を理路整然と分析する。

李立(りりつ)

  • 綽名:なし
  • 所属・役割:梁山泊。輜重隊の責任者、兵站担当
  • 初登場:第1巻 第3章 第4節

梁山泊軍の兵站や補給を一手に引き受ける実務家。三隊に分かれた六千の軍に滞りなく兵糧や秣を運ぶため、寸暇を惜しんで立ち働く忠実な男。燕雲十六州の連絡網を通じて、長い間音信不通となっている唐昇の別働隊の動向を心配する実直さを持つ。現場の多忙さを身にしみて感じており、規律に厳格な軍師・呉用との関係において、自らの怠慢が罰せられるのではないかと懸念する細やかさもある。

董進(とうしん)

  • 綽名:なし
  • 所属・役割:梁山泊。史進の遊撃隊の副官、上級将校
  • 初登場:第1巻 第6章 第2節

かつて宋軍に属していたが、呼延灼の連環馬に大敗した際に仲間が踏み潰される光景を見て心を激しく傷つけた過去を持つ。杜興の助けによって立ち直った後は、史進の配下として頭角を現し、兵たちの気持ちがよくわかる優秀な将校へと成長した。自分の立場をよくわきまえた実直な人物であり、戦闘によって逃げることから戦うことへと兵たちの意識が変わったことを笑顔で肯定する前向きさを持つ。

鄭応(ていおう)

  • 綽名:なし
  • 所属・役割:梁山泊。史進の遊撃隊の将校
  • 初登場:第1巻 第3章 第4節

史進の部隊で一隊を指揮する優秀な若き将校。真定府の軍との戦闘において、敵の本隊から騎馬隊を引き離し、崩れた敵を猛追する追撃戦で見事な指揮を執った。戦闘後には鹵獲した馬六百頭の状況を速やかに史進に報告するなど、有能かつ迅速な実務処理能力を発揮する。

登場人物の関係

graph LR
    史進 ---|同志| 呼延灼
    呼延灼 ---|同志| 張清
    張清 ---|同志| 燕青
    燕青 ---|同志| 李立
    李立 ---|同志| 史進
    史進 -->|主従| 董進
    史進 -->|主従| 鄭応
    董進 ---|同志| 鄭応
    呼延灼 -->|信頼| 董進

地名・拠点

地名種別解説
真定府都市宋軍二万が駐屯、またはそこから進軍してきた拠点
太湖湖・拠点梁山泊軍が新たな大拠点を建設しようとしている水域
深州地域戦闘後に梁山泊軍が移動し、野営を行った近辺の地域
武強地域深州付近にあり、梁山泊軍が戦闘後の野営地とした地域
燕雲十六州地域唐昇の部隊が活動し、飛脚屋の連絡網が存在する北方境界領域
咸平都市女真の地にあり、燕青がそこで楊令(幻王)の軍による攻略の現場を目撃した場所

用語リスト

用語読み解説
聚義庁しゅうぎちょうかつての梁山泊の指導部・合議の場を指す名。敗戦後もこの名が使われている
替天行道たいてんぎょうどう梁山泊の掲げる志。汚れた小さな旗に象徴される天の道
黒騎兵くろきへい楊令が率いる精鋭部隊。雪の中で目立つという理由から、黒い軍装を身にまとっている
飛脚屋ひきゃくや梁山泊軍が情報伝達や兵站調整のために各地(燕雲十六州など)に配置している秘密連絡組織
魚鱗ぎょりん敵の宋軍が梁山泊軍に対して前進する際に用いた、中央が突出した突撃用の戦闘陣形
連環馬れんかんばかつて宋軍時代の呼延灼が用いた、馬同士を鎖で繋いで突撃させる強力な戦術

歴史・文化背景

北宋末期の動乱期、梁山泊軍は童貫率いる禁軍に大敗し、壊滅的な打撃を受けて各地に散り散りとなっている。本節では、江南の「太湖」に再起のための大拠点を構築しようとする動きの一方で、宋軍の目をそらすために呼延灼や史進らが北方で陽動作戦(真定府の軍との戦闘)を展開している。また、北方では新興の「金国」を建国した完顔阿骨打が、遼を滅ぼすべく勢力を拡大している。金は宋と同盟を結びつつも、遼亡き後は宋と対立することを見据えており、その複雑な国際情勢の狭間で、楊令が独自の軍事力(幻王の軍)を持って暗躍している。


Human in the Loop

ここでは、史進がトップの資質・器について考察しているのが興味深い。史進は、呼延灼も李俊も頭領には向いてないと考えている。 志は人の心の数だけあるが、頭領だけは誰もが仰ぎ見る志を持つ必要があるという。 呉用と公孫勝にはそれがある。ただ、呉用は嫌われているし、公孫勝は暗い。史進のその考えは、頭領が務まるのは楊令しかいないことを示唆しているのだろう。

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