第3節 - 李俊

第1巻 第2章 第3節

この節の概要

宋水軍の追跡を逃れた李俊は、闇夜に包まれた複雑な水路を童猛の卓越した異能を頼りに進み、太湖の楡柳荘へと向かう。船上では、造船を担う若き趙林と宋軍の軍船の進歩や梁山泊の再興への備えについて語り合い、水軍としての自身のあり方に思索を巡らせる。太湖の拠点に無事到着した李俊は、留守を預かる上青に迎えられ、そこで彼を三日前から待っていた張清の妻・瓊英と対面する。瓊英は梁山泊の再起を経済面から支援するため、外洋を航海できる梁山泊の大型船を借り受け、日本(博多津)との間で青磁や銀、昆布を巡る大規模な密貿易を行うという極めて緻密な構想を提案する。李俊は、彼女と盲目の養父が練り上げた現実的かつ壮大な交易策に驚嘆し、これに協力することを決意しようとする。


主要人物

李俊(りしゅん)

  • 綽名:混江龍
  • 所属・役割:梁山泊。水軍を率いる将であり、南方の広域交易を統括する実力者
  • 初登場:第1巻 第1章 第1節

長江や南海、登州を結ぶ広大な海域で交易を行い、梁山泊に莫大な利益をもたらしている。かつて多くの同志を戦死させたことに強い責任感を抱いており、宋を打倒するまでは自らの戦いをやめないという固い覚悟を持っている。しかし本来は海の上を愛する男であり、戦いが終わった後は陸にとどまることなく、自由な海を走り未知の土地へ行きたいという密かな夢を抱いている。主要な人間関係:童猛(弟分)、上青(弟分)、瓊英(交易の相手)。

童猛(どうもう)

  • 綽名:なし
  • 所属・役割:梁山泊。李俊の弟分であり、船の先導や水路調査を担う水軍の将
  • 初登場:第1巻 第1章 第1節

双子の兄である童威を戦死させて以降、水に対する並外れた感覚を研ぎ澄ませるようになった。夜の深い暗闇の中でも、水の臭いや流れ、質を感知することで迷わずに船を導くことができる異能の持ち主である。かつて梁山湖や黄河などの精巧な水底地図を船の上から一人で作り上げた実績を持ち、操船と水路の把握に関しては比類のない技術を持つ。主要な人間関係:李俊(上官)、趙林(同志)。

趙林(ちょうりん)

  • 綽名:なし
  • 所属・役割:梁山泊。水軍の造船技術を担う若き技術者
  • 初登場:第1巻 第2章 第3節

阮小二や李雲といった梁山泊の伝説的な名人たちから、造船の道具の遣い方や設計の極意を直接伝授された。謙虚な性格であり、自らの技術を磨きながらも「船の本質をまだ完全には理解していない」と口にする実直さを持つ。将来の宋軍との本格的な水戦に備え、長江沿いに集積された木材を用いた造船計画が始まる日を心待ちにしている。主要な人間関係:李俊(首領)、童猛(同志)。

上青(じょうせい)

  • 綽名:なし
  • 所属・役割:梁山泊。太湖の秘密拠点「楡柳荘」を取り仕切る管理者
  • 初登場:第1巻 第2章 第3節

かつて掲陽鎮で人を殺して役人に追われていた際、李俊に救われて以来、彼を「兄貴」と慕って忠誠を尽くしている。普段は物腰の柔らかい商家の旦那のような風貌をしているが、本質は李俊の弟分たちの中で最も荒っぽい武闘派である。楡柳荘に腰を据えて密売の塩や物資の融通を行っており、地元の役人に鼻薬を利かせて安全な隠れ処を維持している。主要な人間関係:李俊(兄貴分)、瓊英(取り持った相手)。

瓊英(けいえい)

  • 綽名:なし
  • 所属・役割:張清の妻であり、独自の商業網を動かす聡明な女性
  • 初登場:第1巻 第2章 第3節

張清と結婚し、三歳になる息子を育てながら、盲目の養父・鄔梨とともに長江沿いで手広く商売を行っている。武芸の腕では梁山泊の女傑たちに及ばないものの、極めて鋭い眼識と卓越した知略を有し、経済的なアプローチで梁山泊を支援しようとしている。養父が漂流民から聞き出した情報をもとに日本(博多津)との交易計画を立案し、自ら危険を冒して李俊へ交渉を持ちかける果敢な行動力を持つ。主要な人間関係:張清(夫)、李俊(交渉相手)、鄔梨(養父)。

登場人物の関係

graph LR
    李俊 ---|同志| 童猛
    李俊 -->|主従| 趙林
    李俊 ---|主従| 上青
    李俊 ---|信頼| 瓊英
    童猛 ---|主従| 趙林

地名・拠点

地名種別解説
太湖湖長江下流の南に広がる広大な湖。周囲には湿地や入り組んだ迷路のような水路が多数存在し、追撃を逃れて船を隠すのに最適な地勢を持つ
楡柳荘拠点太湖のほとりに建つ上青の屋敷。三十艘の船を隠せる巨大な船隠しを備えた梁山泊水軍の秘密拠点
登州都市山東半島に位置する港町。梁山泊水軍が交易で得た物産を運ぶ中継地だが、現在は宋軍の警戒が厳しい
博多津都市日本の九州に位置する主要な交易港。宋が公式に認可した商船のみが入港を許される、瓊英が目指す密貿易の目的地

用語リスト

用語読み解説
海鰍船かいしゅうせん宋の技術者である葉春が設計した、推進力と防御力に優れた軍船。梁山泊水軍の「槍魚」による攻撃をも防ぐ堅牢さを備え、宋水軍の主力として改良が進められている

歴史・文化背景

北宋末期における民間主導の「日宋貿易」の実態が背景に描かれている。当時の宋朝と日本(平安時代末期)の公式な国交は途絶えがちであったが、博多津などを中心に青磁、経典、宋銭が日本へ輸出され、見返りとして日本からは大量の銀や、薬草として高値で売れる昆布、上質な絹などがもたらされていた。梁山泊は、宋国内での軍事的な圧迫を回避するため、これら東シナ海をまたぐ広域な外洋交易ルートに活路を見出し、大宰府の監視をかいくぐるという、きわめて高度な密貿易ネットワークの構築を試みていたことが描写されている。


Human in the Loop

古くからの人物、新たな人物が次々に登場し、読み進めるのがややしんどい節だが、少なくとも李俊は押さえておきたい。呼延灼、史進、張清が率いる6千の歩兵・騎馬隊に対し、水軍を統括する李俊である。

しかも水軍は戦闘だけでなく、交易・物流についても重要な役割を担う。張清がベタ惚れし女房にした瓊英は、規模の大きな交易の才能を発揮し始め、李俊に様々な提案を行う。

→ 次の節(第1巻 第2章 第4節)

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